悪すぎても、良すぎてもダメな理由とは

中小企業の経営において「人材不足」という言葉は、もはや日常的に耳にする課題です。求人を出しても人が集まらない、せっかく採用しても定着しない、育つ前に辞めてしまう。こうした悩みを抱えている経営者の方は少なくありません。

その一方で、「人件費が重い」「人を増やしたいが売上が伸びない」という声も同じくらい聞かれます。

つまり、どの企業も「人と売上のバランス」に頭を悩ませているのです。

このバランスを数字で表す指標のひとつが 人時売上です。経営改善のカギを握る指標でありながら、現場感覚だけで捉えられている企業が多いのが実情です。

この人時売上を正確に把握する意味と、「悪すぎても良すぎてもダメ」な理由を解説していきます。

〇人時売上とは何か?

まずは定義を整理しましょう。

人時売上 = 売上高 ÷ 総労働時間

例えば、ある月の売上が1,000万円で、従業員全体の労働時間の合計が5,000時間だとします。この場合の人時売上は、

1,000万円 ÷ 5,000時間 = 2,000円/時間

つまり、「1時間あたりにどれだけの売上を生み出しているか」を示す指標です。

この数字は、業種・業態によって基準値が異なります。飲食業、小売業、物流業、製造業、それぞれの特性によって適正な水準は違いますが、大切なのは 自社にとって適正な水準を知り、常に把握しておくこと です。

〇人時売上が「悪すぎる」場合

人時売上が低い場合、次のような状況が考えられます。

  1. 人が余っている状態
     ・売上規模に対して人を抱えすぎている
     ・シフトや稼働計画が甘く、実際には必要のない人員まで配置している
  2. 売上が足りていない状態
     ・人員は適正でも売上が伸び悩んでいる
     ・商品やサービスの需要不足、営業不足、価格設定の問題

このような場合、経営者として「人件費を削るか」「売上を上げるか」の二択を迫られます。ここで陥りやすいのは、短絡的に人員削減に走ることです。確かに数字上は改善するかもしれませんが、サービス水準が落ちて顧客離れが進むリスクもあります。

本質的には、「余剰人員の配置を見直す」「販売や集客の仕組みを強化する」といったバランスのとれた対応が必要になります。

〇人時売上が「良すぎる」場合

意外に見落とされがちなのがこちらです。人時売上が高いと、一見「効率が良い」「利益率が高い」と喜ばれます。しかし、行き過ぎた人時売上の高さには深刻な副作用があります。

  1. 現場は常に人手不足
     ・売上は確保できているが、人が足りていない
     ・スタッフ一人ひとりの負担が大きく、疲弊する
  2. 人材確保が難しい
     ・「忙しすぎる職場」という評判が広がり、採用が困難になる
     ・求人を出しても応募が集まらない
  3. 教育ができない
     ・現場に余裕がないため、新人に手をかけられない
     ・結果として人が育たず、戦力不足が続く
  4. 退職率が上がる
     ・慢性的な人手不足はストレスを生み、離職につながる
     ・退職が退職を呼び、さらに人材不足が深刻化する悪循環

つまり、人時売上が高すぎるということは「会社が人材に対して投資していない」状態とも言えます。短期的には利益が出ていても、中長期的には組織が疲弊してしまうのです。

適正な人時売上を見極める

では、どの程度が適正なのか?

これは業界や企業の状況によって違いますが、重要なのは「自社にとっての基準値」を持つことです。

  • 過去3年の平均値を算出し、基準とする
  • 同業他社の公開データや業界誌の指標を参考にする
  • 成長期と安定期で適正値を分けて考える

適正値を持つことで、「今の人時売上は悪すぎるのか、良すぎるのか」を正しく判断できます。

〇人時売上を改善するための視点

単に「数字を上げる」「数字を下げる」ではなく、バランスを整えることが肝心です。具体的な改善の方向性としては、

  1. 稼働の最適化
     ・シフトや業務配分を見直し、無駄な稼働を減らす
     ・繁忙期と閑散期で人員配置を柔軟に変える
  2. 売上アップ施策
     ・既存顧客の単価向上(クロスセル、アップセル)
     ・新規顧客獲得の仕組みづくり
     ・商品・サービスの付加価値強化
  3. 人材への投資
     ・新人教育に時間を割き、戦力化を早める
     ・多能工化を進め、少人数でも柔軟に回せる体制にする
  4. データ管理の仕組みづくり
     ・毎月の人時売上を必ず数値化し、推移を管理する
     ・現場責任者と共有し、現場の改善アクションに結びつける

〇経営者が意識すべきポイント

人時売上を考えるとき、経営者が陥りがちなのは「良い=高い」「悪い=低い」と単純に判断してしまうことです。しかし実際には、 悪すぎても良すぎてもダメ なのです。

  • 悪すぎれば、人件費のムダや売上不足で経営が圧迫される
  • 良すぎれば、人材不足で組織が疲弊し、未来の成長が止まる

経営において大切なのは「適正な水準を保ち続けること」。そのためには、単なる数字の確認ではなく、背景にある現場の状態をしっかり観察することが必要です。

人時売上は経営の健全性を示すバロメーターです。

  • 悪すぎれば人が余っている、売上不足
  • 良すぎれば人が足りない、教育できない、離職率が上がる

つまり、人時売上は「高ければ良い」というものではありません。
大切なのは、自社にとって適正な基準値を見極め、その範囲でコントロールすることです。

経営者にとっての役割は、数字を管理することだけでなく、 その数字の裏にある「人」の状況を見抜き、未来に向けて健全な組織をつくること にあります。

人時売上を正しく理解し、活用することは、これからの中小企業経営において必須の視点となるでしょう。

是非、参考にしてみてくださいね(^_-)-☆

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